雨の棺に閉じ込められた恋心を、僕はけして忘れはしない。
けれど赦されるなら、あのひとと同じように僕を呼んで……。
今はまだ囚われているこの想いを、いつの日か君に捧げるから。
●ちょっと立ち読み!
「観月、答えて」
呼ばれる名前がまるで呪文のようだ。
答えることは苦痛なのに、それすら越えて従いたい。
「考えたこと、ない」
言葉を繕うことはできなかった。
僕の中にある真実を声に乗せることだけで、どんな誤魔化しも利かない。
「だったら、……俺としてみる?」
進藤の声が身体の深い所を抉ったような気がする。
吐息さえ感じるほど近い所から落とされた質問に、喘ぐように頷くだけで精一杯だった。
進藤の指が探るように僕の唇に触れる。
振り向くように促され、考える間もなく唇が重なった。
どうすればいいのか分からずに固く閉じたままの唇をあやすように上、それから下と啄まれる。
胸の前でぎゅっと握り締めた拳を、少し強引に開かせて、進藤が指を絡めてきた。
湿った、僕よりも高い体温の手が存在を主張する。
それはまるで、お前の前にいるのは俺だと言い聞かせているように思える。
文章の方は「きゅんの魔術師」の二つ名を持つ、もりかさんの待望の新作です。
声を大にして言いますが、この作品はもりかさんの新境地であり、同時に真骨頂でもあります。
生々しさをギリギリで回避しつつも、登場人物達のリアルな感情はきちんと表現されていると感じました。
今作は特に、もりかさんならではの持ち味が最大限に生かされていると太鼓判を押します。
芳賀沼さらさんの、この表紙画。拝見した瞬間に、描かれているはずのこの青年の体温や呼吸音、そういうものが感覚的に伝わってきました。薄い瞼が震えているようにも感じます。繊細で確かな生を堪能させていただきました。
恋愛小説を読む時、人はそこに何を期待して頁を繰るのだろうか。
もりかさんの書く話には、いつもその答えがぴんと一本通っている。
甘酸っぱいいつかのあの日。幼いなりに胸を痛めた、初めての恋。上手く扱えない想いに嘆いたり、立ち向かったり、打ちのめされたり。
そんな誰もが覚えのある、いや覚えがなくとも何だか懐かしい気持ちになる「きゅん」とする想いが、そこには書かれている。
今、巷ではBLだのNLだのと区別を付けたがりますが。
愛の物語は全て、その「きゅん」とする想いがなければ息づかないと改めて思い出させてくれるお話です。
作風そのものはあくまでも女性的な繊細な筆致で、しかし描かれているのは存在感に溢れた男性的な魅力だ。
芳賀沼さらさんのお題絵(表紙絵)を最初に見たときも、もりかさんの文章を読んだときも同じようにそう感じました。
「BLだ! 男×男だ! wooo!」と(平素の私のようにw)思って読むと、幼馴染の女性への思いが切々と語られる序盤は「あれっ?」と違和感を感じるかもしれない。でもそれほど強く彼女に心惹かれながら、肉体的には男性とつながっていく主人公の思いこそがこの物語の醍醐味。
BL読みを唸らせる奥深さを持つ一篇です。
表紙の目を閉じる男性の絵。
読んだ前は何をしているのだろうと漠然とした想いでみていました。
読んでみて、改めて表紙を見ると、雨の中に佇む男性に見えて仕方ありません。
読んだ後に、やはり胸がいっぱいになりました。
最初の恋は百合のように綺麗なままで。
でも、これからの恋はちゃんと息をして、向き合って欲しいと…そう思いました。