「――とにかくひどい」
それが褒め言葉になる作家は、数少ない。
全身全霊がっぷり四つに組み合った、
いろいろひどい、怪作短編集。
【立ち読みサンプル】
白磁の空間
「今年も、あと三時間か……」
六畳二間のボロアパートの一室で、笹井はつぶやいた。
窓の外には、微かな風の音。
きっと路地裏では薄暗い街灯の明かりと迷い猫が、寒さに身を縮ませているに違いない。
今ごろ人々は暖かい家の中で、過ぎゆく年を思い返して幸せの余韻に浸っているのだろう。いわば、西暦一九九二年が永久に過去になろうとしている一瞬に、残り僅かな時を懐で温めているようなものか。
もちろんそれは、孤独な貧乏学生である笹井もそうであった。
【続きは本編で!】
※2013年5月15日に氷原公魚全集第二巻を「鰻編」と改題したKindle版がリリースされたため、KDPの規約に基づきPDF版の公開を終了しました。
氷原先生、全集第二巻の完成、おめでとうございます。
「白磁の空間」と「ぴちぴち」は十数年前にも読ませていただいたことがあるのですが、年月を経ても決して色褪せることのない魅力を感じさせていただきました。
氷原先生といえば「白磁の空間」。
そんな印象が、私の脳裏には深々と刻みつけられております。
そしておそらくはこの先何年生きても、「白磁の空間」を超える輝かしい「ひどさ」には出会えないんじゃないか、そんな気さえします。いやホントにひどい。ひどすぎるw。
「ぴちぴち」の行間から生臭さの漂ってきそうな残虐性。「玉ノ海の想い出」の「……か、感動してなんかいないんだからねっ!」と読む者の荒ぶる魂を揺さぶるハートウォームな読後感。本書は、まさしく氷原節の真骨頂を堪能できるお得な一冊であるように思います。
早くも第三巻が待ちきれぬ心地です(^^)。
表紙を拝見した瞬間に心が折れそうになりましたが、読んだ今となっては、表紙の便器ごときで折れそうになった弱い心を恥じておりますw 『白磁の空間』の酷さ、否が応でも再現される五感、なのに転げ回って笑うという現状。それはそれは大変なものでした。
毎回、装丁の方や表紙素材を提供してくださる方のご苦労を思うのですが、今回ばかりはかける言葉が見つからないという事態です。本当に、お疲れさまでした…。
『玉ノ海の想い出』には号泣させられました。コンタクトが片方、行方不明です。
「白磁の空間」を食事中に読んでしまった悲劇><
「ぴちぴち」生々しく、しかもくすりと笑えてしまうホラー感。
「玉の海」ファンタジーだと声を大にしたい感動の作品。
一番好きなのは玉の海です。
立場の逆転することの恐怖、次第にエスカレートする要求。
「自分の身に降りかかるとホラーで他人事だとギャグ」と聞きましたが、実感できるのはこれが初めてです。