フラミンゴの鮮やかな紅の色は、兄と犯した罪の記憶。
大人の女性に向けたラブストーリーです。
【立ち読みサンプル】
1
「動物園日和って天気じゃないな」
フラミンゴの檻の前にぼんやりと立っている比奈に、小菅はそう声をかけた。
愚痴めいた言い方だった。何でこんなところに呼び出されたのか分からない。そう言いたいのを堪えているようだ。
上野公園口から入って、ずいぶん歩いたのだろう。少し迷ったのかもしれない。いかにも会社を抜け出してきたばかりというダークスーツに、子供向けの絵本みたいな動物園の絵地図を描いたリーフレットが不似合いだった。
【続きは本編で!】
男と女なんて簡単、でも簡単には語ってはいけない。美しいフラミンゴの鮮やかさがとても印象的なラブストーリーです。素敵でした。
果たして上手な恋愛ばかりをして大人になる人などいるのだろうか。
歪で傷付くばかりでもないけれど、何某かの形できっと誰もが後悔をしながら生きている。
ふと初恋はいつだったか、考える様な一冊です。
出だしは、シビアなラブストーリーだと思いました。
しかし読み終わる頃には、違う感情に支配されておりました。
フラミンゴの色は、キツイ程に鮮やかなピンクだったり、また優しい桜色だったりします。
綺麗なフラミンゴカラーのグラデーションが、自然にイメージされたお話でした。
上野動物園のフラミンゴの檻。
そこに囚われた女性の心の動きが、流れるように展開していきます。
フラミンゴは最初は純白なれど、エサとなる藻類の色素を分解できない。
その色素は罪のように羽根に蓄積し、彼女を赤く染めていくのですな。
美しくも醜く、頑固にして華奢という見事なバランス。
女流作家ならではの直情的ではない婉曲なエロス。
ラストシーン、登場人物と一緒に上野動物園を立ち去ったような気さえします。
上原先生、相変わらず素晴らしい表現力です。
描写力では永遠に先生に勝てませんなあ。
文庫本を一冊読んだような濃厚さを感じました。
それでいて、重いわけでなく頁をめくる手は休むことはありませんでした。
美しい色彩の表現と艶のある場面に引き込まれ、あっという間に読破してしまいました。
艶やかな大人のラブストーリーです。