話者が変わると視点が変わる。
当たり前の事だろう。
しかし、視点が変わると怪異も変わったとしたら?
ほのぼの怪談かと思っていたら、静かに恐怖が牙を剥く。
そんな体験のできる一冊をどうぞ。
【立ち読みサンプル】
愛犬・A
Nさんの家に、Sさんが訪ねてきた。
どうやら、愛犬を亡くしたことを聞いたらしい。
態度や言葉使いから、気を遣ってくれているのは充分に分かる。
(そうだ。他の人にも見えるのかなぁ?)
愛犬の名を呼ぶと、ソファーの陰からトムが駆け寄る。
Sさんは声にならない悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
愛犬・B
Nさんは愛犬を亡くし、悲しみに暮れていた。
Sさんが様子を窺いに行くと、予想とは違い大変明るい。
さり気なく理由を尋ねると、「あの子が帰ってきたの」と笑顔で答えた。
「トム! トム!」声に反応するように、ソファーの陰から何かが出てきた。
無表情の若い男の顔が、床を滑るように近付いてきた。
【続きは本編で!】
大抵の「怖い話」は一人の体験者から聞き、一人の視点で書かれている。
しかし、同じ体験をした、もしくは後日その体験を共有した者の話が加わると……。
まさに「竹の子書房だからできる」新しい感覚の一冊です。
それは「愛犬・A/B」で実感して下さい。
違った側面を見せ、牙をむく恐怖。
クセになります。
これは大変良い実話怪談集です。
片方だけだと「ありがち?」と思ったような話が、もう片方を読むとぐっと来る怪談に大変身。相乗効果で三倍怖い話になります。
勉強になるなぁ。
視点の交換というスタイルは「実話」の証明手段としても、
読み手の好奇心を満たす要素としても面白いなと感じました。
一人の体験からは判らないことが判ったり、反対に謎が深まったり
連想がスタートしたり…追体験している感覚に浸れました。
多面的な視点から怪異の真相があらわになる、
新しい物語のアプローチにさらなる可能性を感じます。
その昔熱中したサウンドノベル街に通じるコンセプトと感じました。
それぞれの違う視点が一つに集約する時、
より深くそのモノの本質を知ることが出来る。
今後の展怪に期待してしまいます。
展怪はシリーズ化してほしいなぁ。