奇態流行史(全)注釈付き

――思わず呟きたくなる、江戸明治大正昭和の珍妙ブーム大全。 ――我々のご先祖も大概「變」だった。 廢姓外骨こと宮武外骨は、明治・大正・昭和に掛けて活躍した敬愛すべき売文家である。 二十世紀末頃、赤瀬川原平氏によって再発見 […]

書誌情報

(編著)廢姓外骨 宮武外骨 加藤一

  • 装画:宮武外骨
  • ページ数:190頁相当
  • 価格:580
  • ファイル形式:mobi
  • 発行日:2014/05/29
  • 改訂日:2014/05/29

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――思わず呟きたくなる、江戸明治大正昭和の珍妙ブーム大全。

――我々のご先祖も大概「變」だった。

廢姓外骨こと宮武外骨は、明治・大正・昭和に掛けて活躍した敬愛すべき売文家である。
二十世紀末頃、赤瀬川原平氏によって再発見・再評価され、『滑稽新聞』『面白半分』などを始めとするコミカルかつ諷刺の効いた雑誌や、筆禍・禁令に関わる著書を数多く残し、また本人も筆禍が元で数度に亘る投獄や科料を経験している。このことから、明治の奇人、反骨のジャーナリストなどとも評価されているが、自著の売り上げがイマイチであったりすると、その恨み辛みや幾多のボヤキを次回作のネタに回してくる皮肉屋稼業というほうが、よりしっくりくる。なので、この大先輩について我々は敢えて売文家と呼びたい。褒め言葉である。

外骨は戯作者・山東京伝の研究書の他、特に浮世絵の研究にも尽力しているのだが、本来、浮世絵というものは芸術作品というよりは現代で言う雑誌やタブロイド紙に近いものであり、大衆受けを狙った商品であった。実の所、それらの内容は下卑であったり野卑であったり下世話であったりするものも少なくない。陶器の包み紙として海外に流出することで再評価されたとする説もある浮世絵の多くは、春画であったり本書でいうあぶな繪であったりもした。お高くとまったものばかりでは民衆には売れないわけで、身も蓋もないものが日夜作られ、消費され、都度都度にお上に叱られて禁制を受けたものの、何度も何度も流行を繰り返した。
浮世絵の研究を通じて、外骨はそうした古の記録を芸術作品としてだけではなく、過去の時代を知るための資料として読んだ。その中から特に、皆が熱狂した何かにスポットライトを当てたのが、本書『奇態流行史』である。

……というのが本書の建前なのであるが、実際のところ復刻作業を通じて最も強く感じたことは、奇態流行史は実に優秀なブックガイドなのではないかという点だ。
奇態流行史は過去の時代にあった様々な流行について集めたものだが、『スコブル』『猥褻風俗史』『奇』など外骨自身の著作が数多く出典として挙げられている。また、外骨の著作ではないが、外骨自身が蒐集した「当時、既に古書だった書籍」の類からの引用や紹介も夥しい。
実際、存在が知られていない上に需要がほとんど存在しないような無名の古書が復刻再刊される可能性は著しく低い。しかし、中には幸いにも国会図書館及び近代デジタルライブラリーなどで公開されているものも存在する。例えば、本書中では「大酒大食の自慢會」の引用元である『水鳥記』は奈良女子大学のデータベースで閲覧することができるが、草書で書かれており研鑽を積んだ研究者でもなければ読解も危うい。一方、「僞轉業の見切賣」や「酒杯『おもひざし』人形」などに引用元として登場する明治二十六年発行の『東京百事流行案内』(大川新吉)は、近代デジタルライブラリーで原本のスキャンデータが公開されている。こちらも活字印刷ではなく手書きの印刷物ではあるのだが、判読に若干のコツは必要こそあれ楷書で書かれており水鳥記よりはずっと読みやすい。図解も多くいろいろと興味を惹かれる事物の解説も多い。こちらは、初心者の入門に向いた古書であると思う。
外骨自身、当時としても相当なブックコレクターとして知られた存在であったらしい。もちろんそれは、高く売るための背取り屋としてではない。古書の他、全国の旧家を巡って古新聞をかき集めるなど、世相の蒐集家としての側面は非常に大きい。
『奇態流行史』はそんな外骨の膨大なコレクションから面白そうな話題をピックアップしたものではあるのだが、作業中、外骨から「どうだ、引用元の本も読みたくなっただろう?」とニヤニヤ笑いをされているような気分になった。
そういう意味においては、本書は酷い本、酷な本であると思っている。

さて。
本書は、「次の一冊を読み始めるためのブックガイド」であると同時に、現代に生きる我々にとって、Twitterのネタ本として格好の一冊であると言える。
挿画124点、
全199項目。
とにかく話題に尽きない。
「……っていう話があってさあ」
そこから始まる蘊蓄語りの入り口に、誰かに教えたくなること請け合いである。
と、外骨先生なら言うと思う。

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