悪筆怪談 と言って、グラスを置いたという
【立ち読みサンプル】
悪筆怪談 第一回
「……あれは、もう十年以前も前のことです」
志下沼さんは、<ワイルドターキー>をドバドバとグラスに注ぎ、そのバーボンの入ったグラスを持ち上げて眺め上げながら言った。
「当時私は、妻の実家に住んでいました。つまり、妻と妻の父と母、妻の兄弟である長男の才蔵、次男の次郎、長女のこずえ、次女のみき、三男の鬼太郎。そして才蔵の妻である貞子と長男の一郎。次郎の妻であるキャロラインとその娘のベッキー。執事のゴメスとメイドのベッキー。あと庭師の彦左衛門。運転手の黒川というのもおりましたっけ。これらが同居していたわけです」
「……随分大家族なんですね」
「ええ」
志下沼さんは、そう言ってグラスを置いた。
(……飲まねえのかよ)
【続きは本編で!】
「悪筆とは、こんなに魅力的なものだったのか」
随所で噴き出しつつも、ついそんな感想を抱いてしまう怪作。
雨宮先生のシュールなお人柄が行間からにじんでくるのを感じます。
メイドのベッキーのリンガラ語が素敵すぎ。
読みながら混乱し、混乱しながら思わず吹き出す。
そして最後には、
「あれ?私こんな二重表現してないかい?」
と身につまされるのだ。
心に痛く、為になり、そしてシニカルな笑いに腹筋崩壊必至です。
ほんとに物凄い「教養文庫」です。
しかし堅苦しさは、皆無。面白くてテンポもよくて、とても楽しく読みました。
…でも、これ、「どこがおかしい」「どこが間違い」とかの基礎知識がないと、
本当の意味で味わい尽くすことができないんですよね。さりげに文章修養の
問題集というか、そんな仕掛けもなされているのではないかなと…ごくり。
ここまできたら、もっと追補していただいて、「まずこれで自分で校正しましょう」としてもいいんじゃないですかね。いや、加藤さんの仕事を奪っちゃダメか。
でもご迷惑をかけないようにはしたいです。
いつもお世話になっております。
とても楽しく読めて、学ぼうとするとものすごい情報量でした。
正直、私が気付けなかった悪筆もあると思いますが、そんなの関係なしに読んでいて面白かったです。